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春日太一の「雪中行軍な人生」

時代劇・日本映画・テレビドラマなどの研究家・春日太一のブログです。

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素晴らしき職人の世界

「時代劇マガジン」「時代劇は死なず」「天才勝新太郎」と、
この若輩者が京都のベテランスタッフの方々との取材を次々と行っているのを
不思議に思われる方も多いかもしれません。

あまりこういう話を書くのは気恥ずかしい部分もありますが、
気になる方も少なからずおられるようなので、
今回はその裏側を少しだけ御紹介いたします。

私の場合、尊敬する父が職人だったせいもあり、
彼らの仕事を見て、その技術の真髄をうかがうのが好きで仕方ないんですよね。
なので、現場取材の度に、役者はそっちのけで、スタッフさんの動きばかりを食い入るように見てきました。

こういう若者が取材に現れるのが珍しいのでしょうか。
本当に皆さんによくしていただき、
さまざまなことを包み隠さずお見せくださり、そしてお話しいただいてきました。
一見、気難しそうな方々ですが、実は全くそんなことはありませんでした。
それよりも、含蓄に富んだ皆さまのお話し、そしてその芸術的とも言える仕事に
ひたすら感嘆するばかりで。
おこがましい話ですが、「彼らの凄さ、すばらしさをより多くの方に知ってもらいたい」
というのが、私が原稿を書く最大のモチベーションだったりします。
(それが「時代劇マガジン」でのスタッフインタビューや著書第一弾「時代劇は死なず」へと結実し、
今、「時代劇研究家」を名乗らせていただいている次第であります)

たとえば編集技師の谷口登司夫さん。
この方は勝さんに編集の技術、そしてその魅力を伝えられた方です。
私が取材で撮影所に通っていた頃、
谷口さんは映像京都スタッフルーム棟の二階の作業室でフィルムの編集をされていました。
「ここに来たからには、谷口さんの仕事を見ておくべきだよ」
京都での兄貴分・原田眞治監督から勧められ、階段を昇った時のドキドキは今も忘れられません。

二階の部屋で、谷口さんは古い機材を使いながら、フィルムを繋いでいました。
その物凄いスピードで動く手の早さに、私は圧倒され、しばらく茫然と見つめながら、
気が付いたら真後ろで覗いていました。
そして、谷口さんはそのまま作業を進められていました。
「どうしてこんな早くできるんですか?」
唐突に聴いてきた私に、谷口さんは淡々とこう答えました。
「台本が頭に入ってますから」

そのプロフェッショナルな後ろ姿に惚れまして・・・
いつかこの人の話をキチンと取材したい!
そう思いながら、なかなか機会に恵まれませんでした。

チャンスが到来したのは2008年6月のこと。
「勝新太郎」取材を本格化するにあたり、
まず谷口さんのお話しをうかがいたい。
そう思い立った私は、
懇意にさせていただいている映像京都の西村維樹プロデューサーから御連絡先をうかがい、
さっそくにオファー。
そして、谷口さんから二つ返事で御承諾をいただきました。

6月10日の昼過ぎに、
谷口さんから御指定いただいた太秦の大映通りの喫茶店「カプチーノ」で待ち合わせをし、
そのままインタビュー取材へ。

谷口さんのお体の具合は決して良くはなさそうでしたが、
それでも100分以上、かなり際どい部分までお話しいただきました。
「天才勝新太郎」に登場する谷口さんのエピソードは、その時のものです。
原稿の流れ上、どうしても入れられなかったエピソードもいくつかあります。
「時代劇マガジン」が復活したら、完全版のインタビュー原稿を掲載させていただきたいな、
などと思っていたりもします。
(ただ、時間が時間でしたので、隣席のオバチャンたちの声がけたたましく、
後で録音テープを書き起こすのには苦労しました)

その後の取材への全面バックアップもお申し出いただき、谷口さんは御自宅へ帰られました。

「勝プロが潰れた原因は僕にもある」
そう語られる様子には、今も続く勝さんとの強い絆を感じました。

つい先日も「天才勝新太郎」の重版を電話にてお伝えしましたところ、
「おめでとう!」と晴れやかな声で心から喜んでいただきました。

こうしてお世話になった皆さまからリアクションをいただけるのが、何よりの喜びだったりします。

こう思い出話を書いていますと、また京都に行きたくなってきました。
三月はガッツリ取材といきますか!
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この記事へのコメント

レビューさせていただきました。

はじめまして! ツイッターでの水道橋博士のご著書に関するつぶやきに触発されて拝読。担当編集者を口説いて、『天才 勝新太郎』のレビューをさせていただきましたのでご連絡しました。
媒体は光文社「小説宝石」今月号です。
もし、入手できなかった場合を考えて、下記に原稿を貼り付けておきます。ご笑覧いただければ幸甚です。
*********************
「小説宝石」3月号「新刊ブックガイド」欄 大多和伴彦
『数えずの井戸』京極夏彦 中央公論新社 2100円
 遅ればせながら、昨年の邦画界No1問題作『愛のむきだし』をDVDで鑑賞、4時間に及ばんとする長尺を一気に見せてしまう園温監督の豪腕に圧倒された直後に届いた本書もまた、8百頁弱——今度はあやかし語りの天才が七年ぶりものした活字で掘られた悦楽の井戸に突き落とされることとなった。江戸怪談シリーズ第三弾と銘打たた本書が下敷きにしているのは「皿屋敷伝説」。全国に無数にあると
いうこの怪奇譚を丁寧に拾い上げ換骨奪胎して構築された物語は、随所にちりばめられた仕掛けと、考え抜かれた人物設定(主要人物の「数えること」との関わりの違いが秀逸)によってあやしく、悲しく、そして美しい「伝説誕生秘話」となった。冒頭でふれた映画とは
まったく異なるが、味わったあとに現実社会がそれまでと違った様相に見えてくる余韻を漂わす「愛の物語」の傑作である。
『天才 勝新太郎』春日太一 文春新書 (987円)
 本書もまた3百頁超! 昨今のブームで書店平台を席巻する新書の多くが厚みも中身も薄っぺらになっている中、大健闘している一冊。長島茂雄並みにその破天荒な挿話が面白おかしく人の口にのぼることの多い男優の、ほとんど語られることのなかった映画監督・プロデューサーとしての顔が、彼とともに現場に立ちあった者たちへの聞き書きや、残された資料によって描かれている。その細やかすぎるほどの目配り、創作への愛はM・ジャクソンの『THIS IS IT』の衝撃にも似た感動を読む者に与えるだろう。と同時に、天才の姿を執念で活字化した著者の溢れんばかりの勝への「愛」が横溢した傑作評伝、である。
『奇跡の画家』後藤正治 講談社 (1785円)
 神戸でギャラリーを併設した書店を営む男が出会ったひとりの男。彼は四十九歳までどこにも作品したことのない無名の画家だった。だが、その絵の素晴らしさといったら——。経営者は個展を企画し、その成功により画家は多くの人の絶賛を浴びることになる。が、このノンフィクションが綴ろうとしたのは奇跡の成功譚ではない。ひとり
の画家の絵が、さまざまな場所で、さまざまな人びとの心に、芸術的な面だけではない感動をどのように与えていったかをたどったものだ。口絵の作品写真を繰り返し見ながら作中の人間ドラマを読み終えたとき、私の心の中にも小さなともしびののようなものが灯った気がした。(了)

Re:レビューさせていただきました。

ご丁寧にありがとうございます!
「小説宝石」での御書評は拝読しております。
お褒めいただきまして、誠に光栄であります。
今後ともお引き立てのほど、
どうぞよろしくお願いいたします。

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性別:
男性
職業:
著述業
自己紹介:
時代劇・日本映画・テレビドラマの研究家です。

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