月刊「群像」7月号で「一人カラオケ」についてのコラムを書きました。
おそらくもう二度と日の目を見ることはない原稿と思いますので、
こちらに採録してみました。
どうぞご笑覧くださいませ・・・。
※ちなみにこれ、講談社さんとの初仕事でした。
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大きな原稿を書き終えると、一人でカラオケBOXに行くことにしている。
仕事部屋に篭り切っているうちに溜まりに溜まったストレスを、大声を出すことで解消するためだ。
一人でのカラオケなら、人目を気にすることなく好きな歌を好き勝手な調子で、音程や声量を気にすることなく歌うことができる。
歌いながらその空間にいる間は、嫌な現実から自分自身を解放して日頃の自分とは違う誰か=最高の歌手でいられる。
当初は「うわっ、こいつ一人でカラオケに来ている」という他の客の目が最大のネックだったりするが、仕事柄、平日の昼間でも行けるから、あまり人とはすれ違わない。
最近は一人カラオケ専門店というのもあるが、あれだとスペースが狭くて気づまりになる。
やはり、カラオケBOXの一人では贅沢なくらい広い部屋でソファの上でユッタリしながら歌うからこそ、リラックスができるのだ。
その際、必ず歌う3曲がある。
まずは中村雅俊『恋人も濡れる街角』。
桑田圭祐が作詞作曲した曲だ。
日頃は二枚目ぶってカッコつけるのが苦手なもので、こういったムードのある「カッコよく歌って始めて様になる歌」を人前で歌うのは気恥ずかしいし、そもそもそういうキャラが全く似合わない。
だが、この空間には自分しかいない。
誰の目も気にせず、思い切りプレイボーイ気取りで二枚目を演じつつ歌い上げる。
その瞬間だけ、長年モテてきた遊び人になれた気分になり、たまらなく心地好い。
次は『ラブリードリーム』。
テレビアニメ『魔法の妖精・ペルシャ』のエンディング曲だ。
実は、乙女心を歌ったようなメルヘンチックで可愛らしい曲が大好きで、そういう歌詞に最も感情移入ができたりする。
だが、十代の頃から野太い声の持ち主で髭面のため、こうした歌を歌っている様は傍から見ると気持ち悪く映るだろう。
そういう意味で、これほど一人カラオケに適した曲はないといえる。
この手の歌を歌っている時、自分はアラフォーのオッサンではない。
恋する乙女なのだ。
特にこの曲は「クルクルリンクル♪」とか、劇中でペルシャの使う変身の呪文までもが歌詞に登場する。
だから、歌っているペルシャになりきることができるのが嬉しい。
そして最後は加山雄三・谷村新司『サライ』。
日本テレビの夏の風物詩「24時間テレビ」の最後に歌われる曲だ。
一人カラオケが楽しいとはいえ、その空間は暗く、どこか寂しく、一つ間違うと空しい気分が背中に張り付く。
だが、この曲を歌っていると目の前の殺風景が消え、武道館のステージが広がってくる。
そして、喝采を送る大観衆の姿が向こう側に現れてくるような錯覚に浸れる。
一人カラオケをする際、必ず『サライ』を最後に歌う。
そうすると何か大きなことを成し遂げたような達成感が訪れ、空しさなど全くない晴れやかな気分で部屋を出ることができる。
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